研究テーマ

微生物や水生植物を利用した排水処理

ウキクサを利用した排水処理:

植物は太陽光を利用した光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収して自らのバイオマスを生産しながら生育しています。水生植物のウキクサは汚水への耐性が強く、下水や富栄養化した環境水中でも旺盛に生育し、その生育中に水中から窒素やリンなどの栄養塩類を吸収・除去します。その作用のエネルギー源は太陽光であり、ウキクサを利用した栄養除去や排水処理は省エネルギーで低コストな技術です。そのウキクサ利用型排水処理の高度化と実用化に取り組んでいます。

 

水中から窒素(N)やリン(P)などの栄養塩類を吸収する植物 

研究内容02

ウキクサ

研究内容03

ウキクサ

人工湿地による排水処理:

自然の湿地は植物、微生物、土壌などから構成され、水質浄化作用を持っています。その水質浄化作用を工学的に強化・制御した排水処理法が人工湿地(Constructed wetland)です。人工湿地の浄化メカニズムを解明すること、浄化作用を高機能化すること、人工湿地を利用した省エネルギー排水処理の実用化に取り組んでいます。

研究内容04
研究内容05

下水処理場(山梨県峡東浄化センター)に設置した人工湿地

ゼオライトを利用した排水処理:

ゼオライトは多孔質な天然および合成鉱物です。ゼオライトは高い吸着能力やイオン交換能力を持っています。その能力を持続・再生しながら排水中からアンモニア態窒素を効率的・持続的に回収・除去することに取り組んでいます。また、抗菌作用のある金属を付加したゼオライトを利用した排水中の病原性微生物の失活にも取り組んでいます。

研究内容06

ゼオライト

微生物による有害化学物質の分解

吸着菌と分解菌を利用した効率的な有害化学物質除去:

ビスフェノールA(BPA)などの有害化学物質を特異的に吸着する吸着菌とBPAを分解する分解菌を組み合わせることによって、短時間、高い効率、かつ持続的に排水中からBPAを除去することが可能です。吸着菌と分解菌の相互作用の解明と、この技術の実用化に取り組んでいます。

研究内容07

有害化学物質分解菌の探索:

特殊な細菌は有害化学物質を分解・無害化することができます。この細菌を分解菌と言います。これらの分解菌は環境中での有害化学物質の無害化に大きく貢献しています。様々な環境中から分解菌を探索して特徴を解明することによって、環境中での有害化学物質の分解・無害化の仕組みについて調べています。また、分解菌を利用して有害化学物質汚染水の処理・浄化に取り組んでいます。

研究内容08

ノニルフェノールやオクチルフェノールを分解するSphingobium sp. IT-5株(ヨシ根圏から分離)

植物と微生物を組み合わせた効率的な有害化学物質除去:

植物は光合成によって生産した酸素や有機物を根から分泌しています。その分泌物を求めて特殊な微生物が植物の根の周辺(根圏)に集まっています。それらの微生物は根の分泌物を利用しているため、増殖活性や物質代謝活性が高く維持されています。すなわち、植物は天然の”微生物活性化装置”としての働きをしています。植物と微生物(分解菌)の共生系を利用することで有害化学物質除去を効率化させることができます。

研究内容09

水生植物(ウキクサ)や微細藻類を利用したバイオマス生産

ウキクサによるデンプンおよびタンパク資源の生産:

ウキクサは母株が娘株を産むように分裂しながら個体数を増やして生育しています。その倍化時間(個体数が2倍になる時間)は2~3日程度で、生育速度は高等植物の中で最も高いと言われています。さらに、ウキクサはセルロースやリグニンが少ないソフトなバイオマスで、バイオマス中にデンプンやタンパク質を豊富に含んでいます。ウキクサデンプンはバイオ燃料やバイオプラスチックの原料になります。また、ウキクサタンパク質は次世代の食・飼料用タンパク資源として期待されています。ウキクサバイオマス内の成分量の制御・増量化、バイオマス生産性の向上などに取り組んでいます。

研究内容10

様々なウキクサ種

微細藻類によるバイオ燃料および高付加価値物質の生産:

微細藻類は太陽光を利用した光合成によって二酸化炭素を吸収して様々な有用物質に変換することができます。その有用物質にはバイオディーゼルの原料になる油脂や機能性食品の原料になる多糖(パラミロン)、バイオプラスチック原料の多糖などが含まれます。微細藻類の増殖や物質合成機能を強化して、効率的なバイオ燃料や高付加価値物質の生産に取り組んでいます。

研究内容11

微細藻類の一種であるEuglena gracilis(ユーグレナ グラシリス 和名:ミドリムシ)の培養の様子

ウキクサおよび微細藻類の共生細菌の探索と機能解明:

植物や微細藻類は非常に多くの細菌群と共存しています。腸内細菌がヒトの健康、免疫応答や疾患に深く関与しているのと同様に、植物や微細藻類の共生細菌も宿主である植物・微細藻類の健全な生育に重要な役割を果たしています。その中には、植物・微細藻類の成長促進細菌(植物成長促進細菌 Plant Growth-Promoting Bacteria: PGPB、微細藻類成長促進細菌 Microalgae Growth-Promoting Bacteria: MGPB)が存在します。PGPBやMGPBを利用することでウキクサや微細藻類のバイオマス生産やバイオ燃料生産を活性化することができます。

研究内容12

ウキクサや微細藻類を利用した資源循環型もの創り

化石燃料依存から脱却した持続可能な低炭素型社会・産業への転換に向けては、再生可能な資源を利用した燃料や化成品の生産が重要かつ効果的です。ウキクサや微細藻類は、燃料だけでなく、食料、飼料、化成品、機能性食品などの高付加価値な幅広い用途に活用できるバイオマス資源として期待されています。ウキクサや微細藻類は光合成によってCO2を吸収しながら増殖し、そして、水中から有機物を吸収して混合栄養や従属栄養でも増殖します。

一方、都市生活や産業・農業活動からは必ず排水や廃棄物が発生します。それらは、従来は下水処理場等でいらないものとしてコストやエネルギーをかけて処理していました。その排水や廃棄物中には植物・微細藻類の生育に必要な栄養塩、ミネラルや有機物を含んでおり、その資源を有効利用してウキクサや微細藻類を培養することにより、大気中のCO2や排水・廃棄物中の炭素をバイオ燃料などの高付加価値物質に変換することが可能です。

これまでの”排水処理や廃棄物処理”を”新しい資源循環型のもの創り”に再設計することに取り組んでいます。

研究内容13